新月配列 vs 月見草・ぶな — 順次打鍵の上位 3 つを比べる
同時押しを使わない順次打鍵のかな配列で上位に来るのは、月見草・新月配列・ぶなの 3 つです。推定時間はほぼ同じ。分かれるのは句読点の衝突・濁音規則の一貫性・必要キー数の 3 点でした。
順次打鍵に絞ると、上位はこの 3 つ
同時押しも親指シフトも使わない「順次打鍵だけ」の条件で、日本語入力 56 方式のベンチマーク の上位を抜き出すとこうなります。
| 方式 | 時間/かな | 95% CI | 順位範囲 | 打鍵/かな | キー数 | ハード要件 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 月見草 | 1.804 | 1.796–1.811 | 1–6 位 | 1.23 | 31 | JIS 余剰キー |
| 新月 ANSI30(で 単打) | 1.815 | 1.811–1.818 | 2–14 位 | 1.38 | 30 | ANSI 30 キー |
| 新月 ANSI30(ぶ げ 単打) | 1.824 | 1.818–1.832 | 3–12 位 | 1.36 | 30 | ANSI 30 キー |
| 新月 ANSI30(効率) | 1.825 | 1.821–1.829 | 3–17 位 | 1.39 | 30 | ANSI 30 キー |
| 新 JIS | 1.874 | 1.868–1.883 | 3–11 位 | 1.26 | 34 | JIS 余剰キー |
| 朧月 | 1.882 | 1.862–1.907 | 5–21 位 | 1.29 | 32 | JIS 余剰キー |
| 新月 v8.6(現行) | 1.887 | 1.879–1.900 | 6–18 位 | 1.34 | 32 | ANSI(周辺キー) |
| 月配列 2-263 | 1.892 | 1.883–1.905 | 4–14 位 | 1.30 | 33 | JIS 余剰キー |
| ぶな | 1.951 | 1.930–1.968 | 16–23 位 | 1.24 | 33 | JIS 余剰キー |
月見草と新月 ANSI30 の差は 0.6%。順位範囲(1–6 位 と 2–14 位)が重なるため、この 2 つに有意差はつきません。ぶなは 8% 差で、順位範囲も重なりません(16–23 位)が、これも壁の内側です。
以下、3 つの設計上の違いを見ます。
1. 句読点の衝突(月見草)
月見草は打鍵数 1.23 打/かな で、順次打鍵・30 キー前後の 理論下限 1.27 打/かな を下回っています(下限の計算は ANSI 30 キーの理論下限 を参照)。
これは設計の巧妙さではなく、後置シフトの 3 キーが 、(読点)。(句点)・(中黒)を兼ねている ためです。その結果、
- 「か、」のように、文字の直後に読点を打つ並びが打てません
- 確定操作(変換確定など)を挟んで解決する前提になっています
- ベンチマークではこの確定操作を 0 打として数えているため、実際より速く出ます
実効の打鍵数は下限の帯に戻ります(見積もりで 2% 前後の目減り)。月見草と新月 ANSI30 の 0.6% 差は、この補正で消える範囲です。
日本語の文章で読点は高頻度です(公開コーパスの頻度上位 29 かなに 、と 。が両方入ります)。この衝突を許容できるかは、実際に打ってみないと分かりません。
2. 濁音規則の一貫性(ぶな)
ぶなは が・だ・で を単打に置き、残りの濁音は前置シフト 1 回 で入力します。3 打鍵のかなが存在しないのが特徴で、打鍵数は 1.24 打/かな と少なめです。
一方で「どの濁音が単打で、どれが前置シフトか」を 個別に覚える必要があります。
新月配列は逆に、例外なしの後置規則 を選びました。
- 濁音 = 清音 + ゛
- 半濁音 = 清音 + ゛゛
- 小書き = 親文字 + ゛
濁音・半濁音・小書きが 1 つのキーに統合されている ので、清音の位置さえ覚えれば残りは自動的に決まります。代わりに打鍵数は増えます(1.34〜1.39 打/かな)。
濁音を単打に格上げすると得なのか
この設計判断は、最適化探索でも検証しました。新月構造に「濁音を最大 3 個まで単打枠に置いてよい」と許可したところ、選ばれたのは ぶ と げ で、頻度が高い で・が・じ は選ばれませんでした。
理由は、得が出るのは「基底のかながシフト面にあって 3 打になっている濁音」だけ だからです。で・が・じ の基底(て・か・し)は単打なので、濁音でも 2 打で済んでおり、単打化しても 1 打しか減りません。ぶ・げ の基底(ふ・け)はシフト面なので 3 打から 1 打へ 2 打減ります。
そして 3 個目(ぜ)の寄与は 0.04% で、実質ゼロでした。「頻出濁音を単打にする」の効果は、思ったより小さい というのがデータの答えです。
3. 必要なキーの種類
| 方式 | キー数 | ANSI キーボードで打てるか |
|---|---|---|
| 月見草 | 31 | JIS 余剰キーが必要 |
| ぶな | 33 | JIS 余剰キーが必要 |
| 新月 v8.6(現行) | 32 | ○([ ] を使用) |
| 新月 ANSI30 | 30 | ○(英字 3 行だけで完結) |
順次打鍵の上位を占める月見草・ぶな・月配列各種は、そのほとんどが JIS キーボード固有のキーを要求します。ANSI(英語配列)キーボードやノート PC ではそのまま使えません。
新月配列は、この帯に ANSI キーボードだけで入っている数少ない方式 です。ベンチマークではハード制約を一切かけていないので、月見草・ぶなは有利な条件で測られています。それでも差が 0.6〜8% に収まっている、というのがこの表の読み方です。
まとめ: どれを選ぶか
| こういう人 | おすすめ |
|---|---|
| JIS キーボード固定で、句読点の衝突を許容できる | 月見草。順次打鍵では既定条件の最速です |
| 3 打鍵のかなを作りたくない | ぶな。濁音の位置は個別に覚えます |
| ANSI キーボード / ノート PC で完結させたい | 新月配列 |
| 濁音・半濁音・小書きを 1 つの規則で済ませたい | 新月配列。後置に例外がありません |
速度で選ぶ理由はありません。 3 つとも同格グループの中にあり、順次打鍵・30 キー前後の配列はどれも理論下限から数 % の帯に固まっています。分かれるのは「打てるキーボード」と「覚える規則の形」です。
データと再現方法
数値は日本語入力 56 方式の統一評価(2026-09-13 実施)から引用しています。
- 評価器: 統一評価器
evaluate.py。時間モデルは Rust 実装(shingetsu_rs/src/model.rs)と同一 - コーパス: 公開 150,024 かな(青空文庫『こころ』『坊っちゃん』+ Wikipedia 10 記事)。私的 91,875 かなで対照
- 打鍵の数え方: 前置シフトを 1 打として数える
- 信頼区間: 40 チャンク × 200 回ブートストラップの 95%
- 順位範囲: 重み 5 セット(既定 / 同指 2.0 / 交互 1.0 / 小指 2.4 / E 平坦)× β 3 通り = 15 条件での最良〜最悪順位
- 濁音単打化の検証: 新月構造を ANSI 30 キーに閉じた最適化探索(1 チェーン 1,800 秒 × 16 シード × 3 モード、学習は私的コーパス・検証は公開コーパス)
- 月見草の句読点衝突は、配列定義の後置 3 キーが 、。・ を兼ねる仕様から確認。確定操作は 0 打として計算
方法の全体像と全 56 方式の結果は 日本語入力 56 方式ベンチマーク にあります。
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